Essay [Concepts under construction]

【連載エッセイ】

概念工事中

長野智夫


【2000.12】
【2001.01】 【2001.02】 【2001.03】 【2001.09】 【2001.10】 【2001.11】 【2001.12】
【2002.01】 【2002.02】 【2002.03】 【2002.04】 【2002.05】 【2002.06】 【2002.07】 【2002.08】 【2002.09】 【2002.10】 【2002.11】 【2002.12】

■2002/8/14 【海馬】
結局一ヶ月以上も空いてしまった。
思考も停滞気味。なぜだろう。海馬が弱っているのだろうか。
というより、僕は昔から海馬の働きが悪いような気がする。
人がしゃべることに即座に対応できないし、一人でものを考えるときにも、3分くらい経つと何を考えていたのか忘れてしまうので、いつも紙に思考の道筋を図で書きながら考えている。
『メメント』という映画の主人公が似たようなことをしていた。しかしこの主人公は順行性健忘症の人なのだ。
糸井重里の『海馬』という本を読んで、この症状は脳内の海馬が破壊されたために起こることだと知った。
海馬には短期記憶を処理して長期記憶に変換する機能がある。
また、海馬は脳の中でも唯一、細胞が増えたり減ったりする場所だという(ふつうは減る一方)。
さらに、ネズミを使った実験で、刺激の多い環境に置いたネズミは海馬が大きくなり、少ない環境に置いたネズミは海馬が小さくなるということだった。
人間でも同じことだろう。
いつも同じ行動パターンに終始していると、海馬が小さくなって働きが悪くなると考えられる。そうすると、瞬間的に処理できる情報量も少なくなってしまう。
だから創造的な人というのはアクティブだし、逆にアクティブでないと創造的なことがやりにくくなると言える。
脳も体と同じで、鍛える必要があるということですね。

■2002/8/16 【進行し続けているということ】
前回、『遊』の編集長が当時のことを語っているサイトについて、「どう面白いかは、また後で書きます」などと僕は言っていたが、いざ書こうとすると、どう面白かったのかさっぱりわからなくなってしまっていた。
やはりこういうものは、衝撃を受けたその余韻が残っているうちに書かないとダメですね。
しかしなんとか思い出して、とりあえず書いてみます。
一番衝撃を受けたのは、たぶん、「オブジェコレクション」について語っている部分だったと思います。

「オブジェコレクション」というのは、1ページを16分割してその中に様々な目(この号のテーマが「目」だったので)の画像をつめこんだ特集ページです。
いろいろな目の画像を読者が好き勝手にクルーズしていく、そういうページだったわけです。
作った側としては、「目」ということから連想できる様々なイメージをクルージングして、感覚にひっかかった写真・絵画の一部・文献の図版・小説の挿絵・映画の一シーンなどを次々にページに置いていく。すると、意外な組み合わせがそこに出現する。そういうことをやっていたそうです。
以前、この編集長が「『遊』を創刊するにあたって、世界中の雑誌や広報誌などをあさって参考になるものをさがしてみたが、どれも違っていた。一番参考になったのが、ナムジュン・パイクというビデオアーティストの作品だった」と言っていたのですが、今回このサイトを読んで、ああそういうことだったのかと納得できたというのが一番大きな衝撃でした。
映像というのは、なんでもつなぐことができる。
以前、押井守が『紅い眼鏡』という映画を撮ったときのエピソードで、編集の作業をしているときに、一緒に作業をしていたプロの編集マンに「カットなんてどんなものでもスプライシングテープ一本あればつながるんだ」と言われて衝撃を受けたという話が本に載っていましたが、そういうことです。
そういう、意外な組み合わせができるのが映像というもので、それを見てしまった人はそこに何かのつながりを考えてしまう。
これがビデオになると、早送りやらなにやら、見る側がまたいろいろできてしまう。
そういうビデオ感覚のようなものを、雑誌でやってしまおうということを、この『遊』でやっていたということですね。
そしてさらに、そういう無茶なイメージの組み合わせというのは、考えても作れないことで、プロセスの中で出現してしまうものなんだと、そう言っています。

「考えてもできないことがプロセスの中でできてしまう」
これはすごいことです。
そう言われると、ものを作るというのは、すべてそういうことなのかも知れないとまで思えてきます。

八谷和彦が『視聴覚交換マシン』を作るきっかけになったのも、確か、テレビでイルカの番組を見ていて、イルカというのは超音波で仲間とコミュニケーションを取っている、だったら別の場所にいる他のイルカにもそのときの情報が伝わっているのではないか、それは一種のテレパシーのようなものと考えることができるのではないか、と考えて「感覚」を他人と共有するマシンを作ろうと思いついたということでした。
これも、いわゆる考えること(つまり演繹的思考)でできたものではないですよね。
普通に考えたら、「何か作品を作ろう」→「何がいいか」→…→「他人と視聴覚感覚を入れ替えるもの」となりますが、そうではなかった。
つまり、何か進行している事態があって、その中で感覚にひっかかったものをたどっていったらそうなってしまったという、そういうことです。

こう考えると、ものを作るには、「何かが進行し続けている、何かを考え続けている必要がある」のではないか。
そう思えるわけです。
そしてそんなことを思いついたのも、今これを書きながらだというのも、面白いと思います。
ああ、なんか、久しぶりにエッセイっぽくなったぞ(笑)。

■2002/8/22 【一見さん】
このサイト、実際のところ、スタッフの知り合い関連の方だけが読んでくれているものだと思っていたが、実は違うということを聞き、ちょっと驚く。
なんでも、まだホームページの数自体が少ない頃にyahooに登録したため、「コンピューターゲーム」で検索すると結構いい位置に出てくるらしい。
で、そこから来てくれる人が多いということだった。つまり、実は一見さんが多いのだ。
それなのにこんなサイトでいいのか?という気がした(笑)。
こんな字ばっかりの地味なサイトじゃリピーターつかないじゃん(笑)。
まあ趣旨が趣旨だから仕方ないが、せめて、「今一番ホットなゲーム」とか「ナウなゲーム」くらいトップに載せた方がいいんじゃないかと思った。
で、編集室にそのことを提案してみたら、「前向きに善処する」との回答。
どうなることやら。

■2002/8/25 【企画提案とコンサルティング】
新宿の紀伊国屋書店に行ってみたら、『QUICK JAPAN』のバックナンバーコーナーが組まれていた。
これは! と思い、目当ての号を探す。
以前、GAINAXの山賀博之氏が『王立宇宙軍』を作るときにバンダイをどう説得したかなどについて語っているインタビューが載っていた号をちょっと立ち読みしたことがあり、しかしそれは、買おう買おうと思っている間に、いつの間にかなくなってしまっていたのだった。
18号だった(30号くらいだと思って、ずっとその辺を探していたのだが、大ハズレだった。探しても見つからないわけだ)。

で、注目の「どう説得したか」。
バンダイはその頃、ヤマトやガンダムのプラモデルで儲けていた。
しかしそれらは、直接スポンサーをやっていない作品だった。
山賀氏はそこを突いた。
これからもそんなことをやっていたいんですかと。
自分たちでコンテンツから立ち上げた方がいいんじゃないですかと。
その方が、儲けもより確保できるし、企業のブランドイメージも上がる。
ついては、その第一弾として、映画を作るべきである。

という論法だったらしい。
たぶんそれは、重役や社長たちも常々考えていた痛いところだったんでしょう。
事実、その後バンダイは、サンライズの買収など、コンテンツを囲い込む方向に進んでいる。
なんなんでしょうこれは。
頭がいい人って、二十歳そこそこでこういうことを考え付くんでしょうか。
とにかくこの人は、マッキンゼーに勝るとも劣らないような経営上のコンサルティングを行った上で、自分たちの映画の企画を提案したらしい。

■2002/8/28 【ガンダム者】
富野由悠季氏の『ガンダム者』というインタビュー記事をネットで偶然発見。
これが面白い!
というか、元気が出る。
以前に少し触れた『バーチャロン副読本 スキマティック』での亙重郎氏との対談で話していたことの背景がだいぶわかった。
それと、その対談の結果も踏まえられていたように思う。
こういう考え方をすると、ゲームにもまだまだやれることがあるような気がする。
ゲームには「有力感」を学習できるという機能がある。
「自分にはこんな力があったんだ」という気を起こさせる機能がある。
「無力感」の反対ですね。
この機能をネガティブにとるのではなく、ポジティブにとって、希望がわいてくるようなものを作るというのが、生態学的ゲームデザインの根本思想になりそうだ。


【2000.12】
【2001.01】 【2001.02】 【2001.03】 【2001.09】 【2001.10】 【2001.11】 【2001.12】
【2002.01】 【2002.02】 【2002.03】 【2002.04】 【2002.05】 【2002.06】 【2002.07】 【2002.08】 【2002.09】 【2002.10】 【2002.11】 【2002.12】
【目次に戻る】

 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
 *このサイトはリンクフリーです。無断転載は禁止いたしますが、無断リンクは奨励いたします。 postman@fake-reality.com