Essay [Concepts under construction]

【連載エッセイ】

概念工事中

長野智夫


【2000.12】
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■2002/1/3 【2002年】
年が明けた。
昨年は年始の心意気などを披露してみたが、あれに書いたことは結局なにひとつ達成できていない。
なので、今年も大小あわせて5つくらい目標を立てたが、これは秘密にしておくことにする。
僕は昔から人に言うとダメっぽいのだ。それを一番良く知っているのは、たぶん弟だろう。中学生の頃、何十本となく「今度はこういうの作るんだ」とゲームの構想を語っていたが、ほとんど実現しなかったように思う。言った段階である程度満足して、飽きてしまうのかも知れない。
みなさん(といってもカウンタから計算すると5名様くらいですが)、今年もがんばりましょうね。

■2002/1/6 【前田さん】
最近、本屋をめぐっていると、やたらと前田利家関連の本が目立つ。
もちろん、今年のNHKの大河ドラマが『利家とまつ』だからだろう。
「加賀百万石を築いた男・前田利家」とか「前田利家の戦略に学ぶ〜」とかいろいろ前田利家を祭りあげたものが多い。
しかし、前田利家って、そんなにえらいやつだったのか?
僕の中では、結構、ダメな人の部類に入るんだけど。
だってそうでしょう。
たまたま上り調子の織田の配下のわりといいポジションに生まれて、信長が死ぬと上司の柴田勝家と縁を切って秀吉につき、そこで家康への対抗勢力としてまつり上げられて、でも結局肝心なところで死んじゃって家康に天下を取られつつ、子孫は家康に恭順して大領を安堵されましたっていうオチなわけだし。
モンティパイソンの映画に「ライフ・オブ・ブライアン」というのがある。
イエスがいろんな騒動に巻き込まれていくうちに、思わぬ偶然が重なり、結果的に本 人の意思とは無関係にキリストに祭り上げられて、とうとう磔にまでされる様が描かれたコメディ映画だ。
僕が前田利家の話を映像にするなら、絶対こういう演出にすると思う。

■2002/1/7 【資質】
また、この歳になって今さら発言だが、個人の細かい性格や資質というのは、ゲーム作りのような集団作業でも結構影響してくるんだなと感じる今日この頃。
今までは、ほとんどどんなパートでも、ある程度の人がやれば誰でもできる(同じような結果になる)と思っていたフシがあったのだけれど。

■2002/1/10 【役に立つ本】
ゲームを考える上で役に立った本はいろいろあったが、実際に仕事中によく参照する本というのはそれとは別にある。
最近は、お菓子の中のレアもの(まゆげありのコアラのマーチとか、ハート型のピノなど)をまとめている本とか、300円くらいで買った模様の本なんかを見ることが多い。 絵の方向づけ作業などをやることが多くなっているためだが、こういうときには、こんなの何で買ったんだろうと思うような本が意外に役に立つ。あと、ずいぶん前に買ってぜんぜん見ていなかった珍しいビジュアルの本なんかも。
いつも机に置いてあって、急なネタ出しのときに必ず見るのが『大人の大科学』という本だ。昭和30〜40年代くらいに流行ったおもちゃが丁寧に取材されている。スパイ手帳とかシーモンキーとか。
こういう本がもっとあると便利だよなと思うんだけれど、なかなか見つからない。

■2002/1/11 【進歩がない】
またまた、この歳になっていまさら発言だが、ただ自分の時間をつぎ込むだけのやり方には限界を感じてきた今日この頃。
寿命(社会的寿命)もそんなに長くないことだし、これからはもっと効率的にやっていかなければ。
あと、昨日の本の書名を訂正。
★子供の大科学 「あの頃」遊んだ不思議玩具、教材
 串間努 著   光文社文庫 619円
というのが正しいです。

■2002/1/12 【最近役に立っている本】
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』という本を読んだ。 日常生活の中で“機能する文章”というものはいかに書いたら良いか?という本だ。
これは本当に面白かった。このおかげで仕事で書くメールの書き方も変わってきた。
著者は、『ほぼ日刊イトイ新聞』で毎週水曜日に「おとなの小論文教室」という連載をやっている人で、ズーニー山田という。
僕はこの連載を開始当時から読んでいた。このペンネームを見て、この人のことをずっと男だと思っていたのだが、昨年のイトイ新聞新年号に写真が載っていて、実は女性だったと知った。
けっこう驚いたが、その後、そうか…と妙に納得してしまった。
文章に、すごく青臭いテイストがあると思っていたのだ。
真剣を構えて人と切り結ぶような、緊張感があって、痛みがあって、強さがあって、それでいてやさしい。
そういう文章だった。
なるほど、こういう真剣さがにじむ文章は、女が書くのか…と思った。
この、感情と、その文脈の社会的機能の分析のダイナミックな往復は男が書いたものにはあまり見た事がない。
たぶん男が書くと、感情の部分を消してうまく合理化してしまっていると思う。
僕はこの人のような文章は結構好きな方だ。

■2002/1/14 【教育欲】
三十ともなると、教育欲というものが出てくるようになるらしく、僕も今年は会社で毎週一回ゲーム作りに役立つ本の紹介などをやろうと思い立ってしまった。
しかも宣言してしまった。
で、今日その予行演習を、みんな帰宅したあとの無人の会社でやってみたのだが、いきなり敗北感を感じている。
一応原稿なども作ってみて頭の中では完璧だったはずなのだが、いざ声に出して語ってみると(聴衆はいないけど)、その声が自分の頭にも入ってきて、非常に要領を得ないことをダラダラとしゃべっているのがまるわかりなのだった。
もしカメラがあったなら、カメラ目線で「ダメだこりゃ(ダミ声)」と言いたかった。
言って終わりにしたかった。

■2002/1/15 【結果】
昨日の反省を受けて話の組み立てを変え、朝まだ誰も来ていないときに再び予行練習もしたりしてから本番に臨んだ。
結果、比較的うまくいったようだ。
はぁ…しかし、これが毎週続くかと考えると、非常におもつらい。
まあいざというときは『ゲームクリエイター列伝』(マガジンでたまに読みきりが掲載される)もあるし、なんとかなるか…。

■2002/1/17 【前を行く者】
あるシステムの中の役割なんて(その役割に要求される水準を満たしている人間なら)、誰がやっても同じ結果になる。
そう思っていた理由を考えると、僕はどうも人間を直列に考えていたのではないかという気がしてきた。
というのも僕が社会人になってからずっと、自分の周囲に自分より前を行く人がいたのだ。
この人と僕では、あらゆる面で、僕の方が(少し、あるいはかなり)劣っている。
本当は自分が担当しているこの役割だって、その人がやった方がよりうまくできるのだが、その人は2人いない。
ただそれだけの理由で、この役割が自分にまわってきているだけなのだ。
そんな気がしていた。

■2002/1/18 【小野田氏】
話の途中だが、ほぼ日刊イトイ新聞の小野田氏の話が良い。
小野田氏というのは、あの、戦後何十年もフィリピンの島で戦争を続けていた人だ。
前から、なんてカッコいいんだろう…と思っていたが、今日掲載されたインタビューはその中でもすごく考えさせられる話だった。

■2002/1/20 【朝練志願】
明日は恒例の本の紹介日なので、今日も仕事終了後、無人の会社で予行演習。
結果、そもそも僕が糸井重里の真似事をやろうというのが間違いだったことなどが判明した。
選んだ本が本なので、先週より説明が難しい。
この分だと、明日の朝は早く行ってまた練習しなれけばならなそうだ。
三十男が無人の会社でトークの朝練か…。(しかも追い込み中だよ…)

■2002/1/21 【朝練バレの危機】
今日は少し早く起きて朝練に臨む予定だったのだが、結局普段どおりに起きて出社。
幸い会社にはまだ誰もおらず、急いで練習(ひとりトーク)開始。
だが、話も佳境に入ってきたころ、突然下駄箱を開ける音が!
すぐさまひとりトークを中止するオレ。
まさか…、この秘密の朝練がバレてしまったか?!とあせったが、どうやら声は聞こえていなかったようだ。
ほっと胸をなでおろすオレ。
結果は、まあ笑いもとれたのでOKということにする。どういう印象を持たれたのかは定かではないけれど…。

■2002/1/23 【励み度】
推定読者数5人(今現在)のこのサイトにも、ごくまれに反響が寄せられることがある。
非常に有難く、励みになる。
僕はPS2を持っていないのに「メタルギアソリッド2」を買った。
毎朝会社でオープニングを見て励みにしようと思ったからだ(笑)。
反響は、メタルギアより励み度が大きい。

■2002/1/25 【やけに面白かった本】
『オデッセイ1971-2001』という本を買ったら、めちゃくちゃ面白かった。
ずっと以前に触れた「遊」という雑誌を出していた工作舎という出版社の回顧録みたいな本だ。
巻末に創立者の松岡正剛と現在の編集長の対談が載っていて、「遊」出版当時の内部の動きなどが語られている。
それが、ほんとに面白いというか、熱い。
僕も本の紹介などを会社で始めてみたが、こういうことを通して少しでも、新しい概念を作り出すことができる集団に近づけられればと願っている。

■2002/1/28 【例のイベント】
今日も本の紹介日だった。しかし今日のはわりとしょうもないネタだったので、とくに朝練もせずに臨んだ。
結果、笑いは少しとれたものの、やっぱり嘲笑みたいなニュアンスが感じられた。
しかし、やりますよ僕は。この3回は最初から予定していたことで、次からが本番だ!
とりあえず「ゲーム作りは新概念作り(であるべきという思い)」ということを、『イトイ式コトバ論序説』から始めて『東京ミキサー計画』でそれを現代芸術の話まで飛ばした上で、ゲームソフトの「MOTHER」のフライングマンの話と「たまごっち」の話と「ちびっと」の話でゲームに着地させて語る予定。
というか、その前に、追い込み中のソフトをちゃんと仕上げなきゃな…。

■2002/1/30 【どうにかならないのだろうか?】
今日は某有名ソフトのディレクターをやっていた人と会食。その人は、自分の子供がゲームをやっているのを見ると「お前なあ、ゲームをやって何か成し遂げたような気がするのは、それはウソなんだぞ。本当はやらされてるんだぞ。たとえば何々のゲームをクリアしたというのと、漫画を描いて人に見せたりっていうのはぜんぜん違うんだぞ。作ってる本人が言ってるんだから間違いないんだ。」と常々言い含めているらしい。
まさにその通りなんだけれど、そういう、自分の子供にも薦められないような物を作っているというのは、どうなのだろうか?
基本的には、売れるもの=人々に求められるものを作るということは良いことなのだが、これはこれでどうにかならないものかとも思う。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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