Novel [The Last Spurt Diary]

【小説】

追い込み終わらず日記

田村耕三


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1998年8月1日
デバッグスケジュールの中に急遽体験版バージョンのデバッグを組み込むことになる。
急いでデータを更新し、リンクして焼いてデバッグ屋さんに発送。
テクノドライブに再挑戦。
今度はさすがにDとC−が取れるようになった。動体視力だけはA−。
絵も何バージョンか用意されていることが判明。しかし、ネタ的にはEなどの方が面白かった。
しかしこういう日常のわきにちょっとくっついていて、なんとなく日々の何かを記録できるゲームというのは良いと思う。

1998年8月2日
雑誌を見ていたら、砂原良徳というひとが「東京地下空港」などというインチキ空港のプロモーションCDを出しているそうなので、近くのタワーレコードに寄って入手した。BGMとしては割と良い感じ。というか、その雑誌の紹介記事を読んだ限りでは、効果音を組み合わせてホントに地下空港の様子を再現したようなものを想像していた。どう読まれてもいい情報構造物としての音楽とか言ってたので。
知り合いが突然来訪。客が来たのに茶も出さないのかなどと横柄な事を言い(笑)、出したらさっさと帰ってしまった(笑)。その後、データを更新し、プログラマーを呼んでリンクしてもらい、焼いてデバッグ屋さんに発送。明日からデバッグ要員が増員される。

1998年8月3日
今日からデバッグ要員が増員される予定なので、指示書を送る。
しかし、屋さんにはそんな通達は来ていないそうで、クライアント様に電話。
明日からデバッグ要員が増えることになる。

1998年8月4日
取引先の大会社の方々が来社。大変な仕事(というか、聞いてないよ〜的な内容のシゴト)を引き受けざるを得なくなり、社長がブルーになっていた。
これに関しては、その後、光明が見えてきたので良かったのだが。
そこで出た話の内容を社内で話し合っていて気付いたこと。最近、ヒットゲームを数える単位は“1本”でも“1作”でも、“1発”でもなく、“1キャラ”らしい(笑)。
まあ、確かに(笑)

1998年8月5日
体験版をクライアント様に発送。早ければ盆過ぎ、遅ければ9月頭くらいに一般公開されるだろう。さあ皆さん、ゲットだぜ!
そういえば、ここの編集室のひとに宣伝記事の掲載をお願いしたのだが、ここの研究と絡んだ、何かキャッチーな文章を書いてきてくれなきゃ載せないと言われた。そんなの今書いている余裕がないので、記事掲載はもう少し後になってしまうかも知れない。

1998年8月6日
追い込み終わらず。悪あがきの日々が続く。

1998年8月7日
ポケモンスタンプラリーに挑戦する。
参加しようと並んでいたら、35歳以上で未婚のひとは参加できないと言われた。
仕方ないので、その辺にいた小学生からスタンプ帳を200円で買い上げて参加することにした。今日一日でゲットしたスタンプの数は13個。151個までは長い道程になりそうだ。

1998年8月8日
ポケモンスタンプラリー2日目。さすがにツラくなり、スタンプを偽造。
しかし、あと少しのところでバレてしまい、スタンプ帳を剥奪されてしまった。無念。
ところが、偽造した偽ポケモンが思いのほかよく出来ていると評判になり、ポケモン金銀で採用されることになった。名前は“ドクリュー”。ミニリューにカレーを食べさせると進化する予定。

1998年8月9日
デバッグ屋さんに最新版ROMを発送。
テクノドライブでCとB−を取る。
明日から出張だ。

1998年8月10日
この文章は出張中のホテルのプールサイドのデッキチェアで書いている。
便利な時代になったものだ。

1998年8月11日
今日は出張最終日。明日には東京にいることだろう。
ミリオンの商談をまとめ、発売前の要チェックゲームを飽きるほど遊び、帰路につく。

1998年8月12日
時差ボケのせいか、異常に眠い。
二度寝による時間調整の後、出社。

1998年8月13日
デバッグ屋さんに最新版ROMを発送。
データ作成もあと一息だ(←デバッグ中なのに終わってないんかい!)

1998年8月14日
会社の今後の展望についてミーティング。
なんでも、ネットワークを使ったソリューションの依頼が舞い込んでいるという。
乗り気な人は乗り気だが、実作業を行う方は乗り気ではないようだった。
ま、現実的に考えるとムリだし。
現追い込み作の発売は11月。体験版の配布も9月上〜中旬になる見通し。

1998年8月15日
しゃぶしゃぶ座談会。しかし、この座談会は私の準備不足だった。
やりたい企画を聞かれて即座に100個くらい答えられなければ、プランナーとしてはアレだろう。
心底やりたい企画というのは、天から降ってくる以外に人工的に生み出すのは難しいと思う。降ってきても実現性とかは考慮されてないし。だから、結構やりたい企画というのをコンスタントに生み出さなくてはいけないのだが、これがまたなんともナンであり、難しいところ。個人的に売ることを考えないで作りたいものは結構あるんだけど。自動販売機のゲーム(笑)とか。

1998年8月16日
そういえば、現追い込み作の攻略本の発売が決定した。
より一層、追い込みに気合いが入る。

1998年8月17日
そういえば、現追い込み作の映画化も決定した(←さすがにこれはウソ)。
追い込みにも、かなり気合いが入る。

1998年8月18日
追い込み作のデータ作成が一通り終わり、デバッグ屋さんに発送…ふぅ。
でもまだ一部残ってるんだけど(笑)。

1998年8月19日
電車の中刷り広告を見て思ったのだが、『プレジデント』の表紙を絵って、ただのしょぼくれたオッサンでもなぜかカッコよく見えてしまうので不思議だ。

1998年8月20日
サウンドの落とし込み作業を行うため、急遽サウンドエンジニアが召喚される。
しかし彼が帰るまでの間、誰も私の姿を見ていなかったというが、気のせいだろう。

1998年8月21日
CD−Rによるコピー対策として、コピーしたCDの焼き面を見ると失明するような信号を、オリジナルディスクに書き込むことになった。さすがにこれはヤバイだろうという意見もあったが、弁護士に問い合わせたところ、PL法より著作権法の方が優先順位が高いのでOKということだった。これでコピー対策もバッチリである。

1998年8月22日
最終バージョン(希望)をデバッグ屋さんに発送。
マスターアップは来週。あと一息である。
プログラム的なバグはもう潰せているのだが、イベント部分のデバッグがやはり大変だ(なにしろ大作RPGなもので)。
体験版も9月中には公開されるだろう。

1998年8月23日
デバッグのため、自宅のパソコン環境を実験台にすることに決定。
いろいろなデバイスの抜き差しを行う。
ついでにパワーアップを図ろうと秋葉に繰り出し、パーツを購入。
ペンU300MHzにRAM128MB、その他のボードやケースもすべて新調し、ATX&オールPCI環境(ビデオカードはAGP)への移行をもくろむ。
ケースは通称・冷蔵庫と呼ばれるフルタワー。さすがに、これを秋葉から手で運んでくるのは相当疲れた。
しかし、組み立て作業中に、このケースにはHDを収納するシャドウベイがないことが判明。そのまま作業中断。明日、マウンタを買いに行かなければならない。

1998年8月24日
マウンタ購入。
会社から帰宅後、組み立て作業を再開するが、購入したマウンタに付属のネジではサイズが合わず、そのマウンタを固定できないことが判明。後日新しいマウンタを購入するとして、とりあえずグラグラするが前のマシンからはずしてきたHDを接続。パソコンに電源を入れると……動いた!。
とりあえずめでたしめでたしというところで終了。

1998年8月25日
出社途中で新しいマウンタを購入し、出社。
差分ファイルをデバッグ屋さんに送る。
帰宅後、新たなマウンタを装着してネットに接続しようとするが……できない。
設定をいろいろ変えて試すも無駄に終わる。とりあえず明日に持ち越し。

1998年8月26日
帰宅後、設定の続き。しかし、どうやってもダメ。
このプロバイダはBBSもやっていることに気づき、そっちに電話をかけると…つながった!
これでとりあえずメールは読めるようになった。
しかしBBSにつながるということは、モデムが壊れているわけではないということだろう。

1998年8月27日
今日でデバッグ屋さんは終了。
あとは作業終了後に送られてきた進行表を見て、チェックが済んでいないイベントのチェックをして提出である。
インターネット環境いまだ復旧せず。

1998年8月28日
最終デバッグ。

1998年8月29日
デバッグも大詰め。
大作RPGなものでイベントのチェックが難航し、徹夜になる。

1998年8月30日
徹夜でデバッグ。

1998年8月31日
午前1時ごろ。デバッグ終了。後は最終焼きチェックのみとなる。
CDを焼く間、ピザを取って祝杯をあげる。
午前2時半ごろ、マスターが完成。コンビニから宅急便で出せば、今日のうちにクライアント様に届く。
終わりそうで終わらなかった追い込み生活も、これにて終了となる。
感慨に耽っていたところ、他のメンバーは続々帰宅。
私は始発まで待たなければならない。
まだ作業はあるが、とりあえずやる気がしないので、便所掃除をしたりゲーム(自社製)をしたりして時間をつぶし、4時半頃帰宅。

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 この日記もこれで終了です。
 あとは体験版をどこからかゲットし、
 楽しんでいただければ幸いです。
 今までご愛読ありがとうございました。
 またいつかどこかでお会いしましょう!
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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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