MITメディアラボの「インタラクティブ・シネマ」プロジェクト
ここでは、コンピューターを使ってユーザー自身が大幅に映像作りに関与できるような、インタラクティブで即興的な映画製作の方法について様々な研究を行なっている。1996年度の研究内容は、http://www.media.mit.edu/で見ることができる。
1995年度研究内容概略
【2】各テーマの研究内容概略
●Agent Stories(エージェント物語)
自動映画作成システム
<内容>
・制作者は、多数の小さな物語を作り、それを関係リンクによって相互に結び付けることで、網目状になった物語世界「物語ベース」を構築する。
・その「物語ベース」の内容を編集し、作品としてまとめ上げるのが「エージェント」である。エージェントとは、物語ベースに収められているデータを自分に固有の編集方針によって編集し、ユーザーに提供するという、映画監督の役割をするソフトウェアである。
・ユーザーは映像を見る際、エージェントを選択する。どのエージェントを選ぶかで、それぞれ違った内容の物語を見ることができるというもの。
●Boston:Renewed Vistas(ボストン−再開発後の風景−)
ノンリニア・ドキュメンタリー
<内容>
・ボストンの再開発による変化を題材にした、マルチメディア・データベース。
・文脈ブラウジングによって、ユーザーは自分の見たい情報を次々と引き出すことができ、しかもその内容は、文脈的に連続しているため、結果として一本のドキュメンタリー映画を見るの同じような効果になるというもの。
●Contextual Browsing(文脈ブラウジング)
データベース・ブラウジングツール
<内容>
・マルチメディア・データベースを見る際に、その内容の文脈に沿った形でのブラウジングを可能にすることを目的として製作されたツールである。つまり、ユーザーがある情報を見終えたときに、その内容に関連する情報を自動的に検索し、次に見るべき情報のトピックスを提示できるようなシステムである。
・制作者が、自分の表現したいものを構成するのに必要な要素を集めた「フレーム(概念地図)」をまず設定する。
・そのフレームをもとに、次に見るべき情報がデータベースの中から選択され、写真や文書でユーザーに提示されるというものである。
●Jerome B. Wiesner(ジェローム・ウィズナー)
マルチメディア・データベース
<内容>
・元MIT学長ジェローム・ウィズナーの人物紹介。WWW上で見ることができる。
●Just One Catch(ただ一度のキャッチ)
自動上映バリエーション生成システムによる短編映画
<内容>
・若い映画制作者とスケボー乗り泥棒を題材にした、見るたびに内容の見せ方が変化するような短編映画
●LogBoy and FilterGirl(ログボーイとフィルターガール)
マルチシナリオ映画を作るためのツール
<内容>
・マルチシナリオ映画を構成するために必要な要素を集めた「映画フレーム」のようなデータ構造の枠組みを用意し、そのフレームの中のスロットと値に、映画作者が値を入力をすることで、映画の概略的な構成を作る。
・その概略図を使い、さらにカメラワークやカット割りなどが考慮され、映像が自動生成される。
・“Just One Catch”はこのツールを使用して作られた。
●Lurker(ラーカー)
ネットワークを利用したマルチプレイヤー推理アドベンチャーゲーム
<内容>
・ネットワークを利用し、互いに離れた参加者に同じ物語の枠組みを共有してもらうこと、共同で謎を解いてもらうこと、物語上での誘導よりも即興性を重視してもらうことをコンセプトとした推理アドベンチャーゲーム。
・ハッカーの世界が舞台となり、参加者は物語上の登場人物から届く電子メールやビデオクリップを通して、物語の進展を知らされたり、参加者同士でコミュニケーションをしたりして謎を解いてゆくという内容。
●New Orleans(ニューオリンズ)
ノンリニア・ドキュメンタリー
<内容>
・1984年のルイジアナ・ワールドフェアを挟んだ3年間のルイジアナの都市計画に焦点を当てた、ドキュメンタリーデータベース。
・題材についての様々な事柄を網羅した40時間を超えるマルチメディアデータと、それをブラウジングし、自分なりに編集するためのツールがセットになっている。
●Some Assembly Required(いくつかの必要な組み立て)
監督の演出スタイル入力ツール
<内容>
・マルチスレッド映画の制作において、コンピューターによる編集が行われる際、やはり監督の制作意図を十分にくみ上げていなければならない。この研究は、監督の意図を映画に取り入れることを可能にするツールの制作を目的としている。
・合成ショットとカメラワークを定義すること、編集上の制約を設定し、時系列に注釈を付けること、表示場所のサイズに関係のある構成をカスタマイズするためのツールが製作された。
●Two Viewpoints(2つの視点)
短編ザッピング映画
<内容>
・2人の人物の視点を選んで見ることができる超短編映画
●Video Streamer and CollageSpace(ビデオストリーマーとコラージュ空間)
ビデオ編集ツール
<内容>
・従来のものよりも便利なビデオ編集ツール。市販のツールのように、エフェクトをかけたりすることに重点は置かれておらず、ただひたすら「切って貼る」操作を快適にすることに重点が置かれたツール。
●Viewpoints On Demand(要求に応じた視点)
湾岸戦争を題材にしたノンリニア・ドキュメンタリー
<内容>
・湾岸戦争の取材を行った3人のジャーナリストにインタビューを行い、そこで集めた素材によってデータベースを構築。
・ユーザーが、それら複数の視点や話の中から自分の好きな視点、好きな話を選択すると、自動的にデータが編集されて出力されるブラウザがセットになっている。
●Wheel Of Life(生命の車輪)
大規模なウォークスルー型のインタラクティブアトラクション
<内容>
・一つの施設をまるごと使用し、神話的な架空世界のセットを構築。同時に、そこで展開される物語のシナリオが作られた。セットには各所にセンサーやディスプレイが配置されており、観客の動きを検知したり、逆に観客に情報を提供したりすることができるようになっていた。
・観客は、ユーザーまたはガイドとして、このアトラクションに参加する。ガイドは、ワークステーション上でゲームをして遊ぶ。その間、ユーザーはセットの中を歩き回って探索する。歩き回るユーザーの位置はセンサーによって捕捉され、ガイドが遊んでいるゲームの中に反映される。そしてまた、ガイドが遊んでいるゲームの進展が、セットを探索しているユーザーに謎を解く手がかりを与える。このように、コンピューター上のゲームの世界と、セットで組まれた架空の世界が相互に影響を及ぼしながら、観客が共同でゲームを解くような構造になっている。
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