ビックリマンシール

「ビックリマンチョコ」はかなり昔から株式会社ロッテより発売されていたチョコレート菓子である。そして、このお菓子に付いていたシールのおまけが「ビックリマンシール」である。このシールは発売以来「いたずらシールシリーズ」「まじゃりんこシールシリーズ」など、様々なシリーズが生み出されているが、ここでは特に、1980年代中盤から後半にかけて発売された「天使VS悪魔シリーズ」のシールを取り上げる。

当時、小学生を中心に爆発的なヒットを記録したこのシールは、結局どういうものだったのかというと、断片的な情報を手がかりに巨大な神話的物語を再構成してゆくという遊びであった。
シールの表には、一体の悪魔又は天使が描かれており、裏には、そのキャラクターにまつわる断片的な情報が記述されていた。この情報はひとつだけではあまり意味をなさないが、このような情報をいくつか組み合わせると、漠然とした小さな物語が浮かび上がるようになっている。その小さな物語を集めて積み重ねてゆくことで、壮大なスケールの神話的物語が出現するようになっていたのである。
さらにこのシールは、第一期、第二期、……、というように物語の世界設定を共有したまま一定期間ごとに全く新しいシールに入れ替えられ、この入れ替えごとに物語が進展し、壮大な年代記を構成するようになっていた。この大きな物語に魅了された子供たちが、それにアクセスしようとお菓子を買い続けるというサイクルで、ブームは大きくなっていったのである。今から10年近くも前に、ノンリニアだとか文学上の実験だとかとは全く関係のないところで、このような作品が大ブームを起こしていたということはまことに興味深い。

参考文献
『物語消費論』大塚英志 新曜社 1989年発行


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