Review [SEAMAN]

 【評論】

 シーマン 〜禁断のペット〜 (1999)

 2004 渡辺浩崇


『シーマン 〜禁断のペット〜』は株式会社セガから1999年に発売された、ドリームキャスト用ゲームソフトである。開発は株式会社ビバリウム。その後、プレイステーション2に移植され、株式会社アスキーより発売されたが、同社の事業撤退によりいったん市場から消え、現在は新仕様が追加された<完全版>をD3パブリッシャーが販売している。

このソフトは、『シーマン』という人面魚を育てる育成シミュレーションゲームである。
音声入力装置を用い、育てた人面魚と会話ができるというのがこのソフトの特徴であった。

ソフトの構成上の工夫や世界観作りとプロモーションの工夫などは、ゲームデザイナー兼プロデューサーの斉藤由多加氏自らが各所で語っているのでここでは特に論じない。
ただ、ゲームの作り手から見たこのゲームの最大の特長が本人から語られていないのと(ネタバレ防止のためだろう)、マスコミの記事でもあまり見たことがないので、私がここに記しておきたいと思う。

このゲームの最大の特長であり、新しい部分というのは、実は音声入力で会話できることでもシュールで妙にリアルでクセのあるキャラクター設定でもない。

それは、“育成ゲームの中に謎解きの要素を入れたこと”である。

このソフトはいわば、『育成シミュレーションアドベンチャーゲーム』なのだ。
育成シミュレーションでアドベンチャーゲームを作れてしまうということを証明したことが、ゲームの作り手から見た、このゲームのエポックメイキングな部分なのである。

以下は多少ネタバレも含んでいるので、これから新鮮な気持ちでプレイしたい方は読み飛ばしていただきたい。また、プレイステーション2版は、序盤の内容が多少ドリームキャスト版と異なるので、ここでの話は当てはまらない(現在発売されている<完全版>ではドリームキャスト版と同じになっている)。

その前に、このゲームのゲームシステムを簡単に述べておこう。
このゲームは、基本的には水槽で魚を飼う行為のシミュレーションになっており、育成の要素は2つの手続きに集約されている。
それは、“エサをやること”と“水槽の温度を一定に保つこと”である。
両方とも、手間はかからない。電源を入れてチョイチョイと操作すれば済んでしまう。
この操作を定期的に(1日1回程度)行うことで、シーマンは少しずつ育っていくようになっている。
しかし、それだけではこの『シーマン』はクリアーできないのである。
(そもそも、魚の育成のシミュレーションに“クリアーする”という概念が入っていることに注目していただきたい)


ゲームを始めると、『シーマン育成キット』として、十個近い卵と、餌の蛾を育てるケースと、水槽だけがプレイヤーに与えられる。
まずこの卵を水槽に入れ、温度を適温まで上げる。
すると次の日には、卵からクラゲのような生き物が孵化する。
しかしこれは、人面魚とは似ても似つかない形の生き物で、それから何日たってもこの姿のままなのだ。しかも、だんだん死んでいって数が減ってしまう。
「これはどうしたことだろう? 『シーマン』なんてどこにもいないじゃないか!」
というのが、ここまでのプレイヤーの感覚だろう。

仕方がないので、いろいろイタズラをしてみることになる。
水槽の中には、卵から孵ったクラゲのような生き物と、最初から置いてある巻貝の貝殻の置物だけしかいない。
Rボタンで水槽をパチンとはじくことができるので、パチパチやって遊ぶ。
すると、なにげなく置いてあった巻貝の貝殻がピクッと動くのだ!
単なる飾りの置物ではなかったのか!?
ということで調子に乗ってパチパチはじいて遊んでいると、巻貝からアンモナイトのような本体がニュッと顔を出し、水槽の中を泳ぎ始めるのだ!
しかも、あろうことか卵から孵ったクラゲ(もうだいぶ数が減っている)を食べ始めるではないか!
おいおい、待てよ! という感じだ。
しかし、そのうち、クラゲを食べた巻貝の様子がおかしくなる。口から赤い霧のようなものを吐き出すようになるのだ。まさか…血!? そういえば、動きもだんだんにぶってきている。

そうこうしているうちに、ものすごい大量の血を吐き出し、巻貝は動かなくなってしまった。
と同時に、巻貝の口から、シーマンの稚魚が、勢いよく飛び出してくるのだ!


………とまあ、こんなふうに、シーマンの姿が劇的に変わるポイントがいくつか用意されており、そこは、前述の地道な育成の手続きだけでは乗り越えられないようになっている。そこでは、何かしらの特別な手続きが必要で、それを、ゲームの冒頭のナレーションやシーマンの言動から推測して、あれこれ試行錯誤をしていくところが、このゲームのキモなのである。
シーマンとの会話は、実は、間を持たせるためのオマケのようなものなのだ(ただ、もちろん「育てた人面魚と会話ができますよ!」というのは、商品のセールスポイントとしては大きな要素ではある)。

このように、『シーマン』は、何か別のもののふりをした“異色アドベンチャーゲームの可能性”として、ひいては、ゲームの文法の組み合わせ次第では、まだまだいろいろな商品を企画することができるという事例として、非常に重要な作品だと言えるだろう。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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