Real Escape Game
 Review [Real Escape Game]

 【エッセイ】

 リアル脱出ゲーム(2007〜)

 SCRAP

 2012 渡辺浩崇


リアル脱出ゲームはなぜ面白いのか?

私とリアル脱出ゲームの出会いは、かれこれ1年半前にさかのぼります。

その頃私は、仕事で検討していた企画が煮詰まっており、
何か打開策がないか、日々頭を悩ませていました。

そんなとき、最寄駅に貼ってあった、よみうりランドの『夜の遊園地からの脱出』の
ポスターが目に入りました。
「夜の遊園地… リアル… 脱出…」
異様にわくわくするフレーズの組み合わせです。

「何か打開策のヒントになるかも知れない…」と思い、参加することにしました。

そして当日。
ゲームの始まりです。

封筒を開け、問題を見てみると、一部は答えがわかりましたが、あとの大部分はわかりません。
しかし、他の参加者は、あっという間に園内の各方面に散らばってゆくのです。

あせりました。
「あの最初の前ふりと、この少ない情報から、ゲームを進めていかなきゃならないんだ…」
というのが驚きで、現にみんなそれでガンガン進めているのが更に驚きでした。

とりあえず、受験のセオリー的に、解けるところから…と考えて徐々に進めていくと、
だんたんヒントが集まってきました。
なんとなく順調に進めている気になっていると、異変が起こりました。

今まで行けなかった場所に、人がどんどん流れていくではありませんか!

また、あせりました。
「なぜ? どうして…?」
理由がわかりません。
「あそこは運営上のゲームの範囲外ということで、スタッフが警備していたんじゃないの…!?」

しかし、よくよく観察してみると、通れるかどうかの選別が行われているようでした。
で、もう一度、今まで集めたヒントを見てみると…
「…あっ!!!」

鳥肌が立ちました。
「フラグがあるんだ…。この紙と足しか使っていないシンプルなゲームで、
 こんなにスマートな方法で、フラグを表現できるんだ…!」
ということに、ものすごく感動しました。

そして、終了10分前。
あのなんとも言えない、この世の苦悩がそのままスピーカーからあふれ出てきたような音が
流れてきました。
私はギリギリのひらめきで、ゲートを突破する方法を見つけました。

「やった!!!!!!」
まさに、リアル脱出ゲームの賞品だと説明書にも記載されている「あの歓喜の瞬間」でした。

喜び勇んでクリア条件のフラグを立てたその瞬間、
1枚のカードを手渡されました。

まだ…先があったのです。

そこでタイムアウトでした。

客席にもどり、解答の解説を聞きました。
そこでまた驚きと感動がありました。

最後の最後にまだあと2段階ほどの謎解きが残っており、しかもそれが、難しくも美しいのです。

(ただ正直、この公演の謎にはイマイチなところもあったので、
 それはアンケートに書かせていただきました…笑)

この体験で、私はハマりました。
このとき以来、東京(&山梨)で開催されたリアル脱出ゲームには毎回参加しています。

あの、目がカッと開いて、脳の回転速度がガッと上がって、
別次元の世界に覚醒したような高揚感が味わえるのが何とも言えず、素晴らしい。

個人的に一番楽しかったのは『深夜ホテルからの脱出』です。

ちなみに脱出できたことは、過去1回もありません。
(私の脳の回転速度が上がっても、大したことないのです…残念ながら)

で、誠に申し訳ありませんが、本題はここからです。

先日、SCRAP社長の加藤氏がツイッターで、
『リアル脱出ゲームはなぜ面白いのか?』について意見を募集していました。

その時私は、ちょっと考えて、自分なりに感じている面白さを集約して
「人工的な修羅場というか、根源的な生きる力が呼び覚まされる場になっているのが面白いです」
という言葉にして送りました。

それに対して加藤氏から、
「なぜ生きる力が呼び覚まされるのか?」という更なる疑問をもらいました。

確かにそうだよな…と思ったので、この機会に、それを考えてみました。

私の考えでは、『リアル脱出ゲーム』を構成する、最も重要なポイントは3つあります。

1.閉鎖された環境
2.チャンスは1度きり
3.解けそうでいて、実際にはほとんど解けない高度な謎

これらが1つでも欠けると、『リアル脱出ゲーム』とは違うものになると思います。
(それはそれで面白いものは作れるとは思いますけれど)

以下、3つのポイントを少し詳しくお話しします。

1は『脱出ゲーム』なので当然そうですね。一つの施設に閉じ込められて、
時間内はそれだけに没頭することになります。かつ、他のことをやっている人はおらず、
その場にいる人は全員、同じ世界/時間を共有しているという状況にいます。

2も、イベントという形態のゲームで、最後に解答を教えてもらうというシステムなので、
必然的にそうなりますね。
もう一度、やり直すことはできません。
一度の機会の中で、そのときの自分の持っているもの(足とか頭脳とか仲間)を使って、
自力でなんとかしなければならない。もしくはその場で他者と協力関係を作ったり、
どこかのグループが相談しているのが思わず聞こえてきたり。それも含めて自力のうち。

3はまた絶妙なところで、SCRAPの真骨頂が発揮されていると思います。
序盤は比較的やさしくて、終盤からグッと難しくなる。飛躍が必要になる。
解ける可能性はあるけれど、難しくて思うようにいかない。

この3つのポイント、よくよく考えると、似ていると思うのです。
生き物の生存環境の構造そのものに。

生まれてくることで、ある環境に放り込まれる。厳密には閉鎖環境ではないけれど、
一個体の生活範囲でいうと、それなりに限られた環境です。
そして、命は1度きりです。リセットもできないし、最初からやり直すこともできない。
その中で、どうすれば生きていけるのか、何がゴールなのか、自分は何を成したいのか、
そんな解けるかどうかもわからない巨大な謎に挑み続けなければならない。

実際には、現実の『解けない謎』は明確なものではありませんが、ここでは非常に明確で、
解けたことへの見返りがはっきりしていて、必ず解ける道が存在することが保証されている。
ただ、ものすごく難しくて、ほとんど解決は無理だけど、希望はあるという点は似ている。

つまり『リアル脱出ゲーム』とは、
「生き物の生存環境の形をしたゲーム」なのではないでしょうか。
「現実の形をしたゲーム」と言ってもいいのかも知れません。

だから、あの高揚感、熱狂、 生き物としての根源的な生きる力が呼び覚まされるのではないかと思うのです。

それが味わえるから、パズルが得意な人も、そうでない人も、論理派の人も、感覚派の人も、
解けなくても面白くて、イベントとしての後味もよくて、次も絶対にまた来たい!と思える
ものになっているのではないでしょうか?

圧縮された現実を体験することで、生きる活力を得る。
それをもって、いつもの現実に戻る。
リアル脱出ゲームとはそういうものではないかと、私は思います。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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