Review [Pocket Monsters]

 【評論】

 ポケットモンスター(1996)

 1996 鈴元直也


「ポケットモンスター」は、株式会社ゲームフリークが制作し、1996年2月に任天堂から発売されたゲームボーイ用ソフトである。

このソフトは、ジャンル的にはロールプレイングゲーム(以下RPG)ということになる。しかし、ただのRPGではもちろんない。通信ケーブルを使って、他のプレイヤーと、対戦やモンスターの交換をすることが可能なのである。この点が、このゲームの最も大きな特徴だと言える。このゲームは、発売後、主に小学生層の人気を集め、発売後数日で完売。再販が数回に渡って行われたが、品薄状態が5月になっても続いているという、かくれた大人気ソフトでもある。

では、まずこのゲームの概略を説明する。舞台は現代に近い架空の世界。主人公はポケットモンスター(略してポケモン)トレーナーを目指すごく普通の少年である。この少年が、世界一のポケモントレーナーを目指し、各土地のNo.1トレーナーと勝負しながら、世界中を旅するというものである。ポケモントレーナーとは、戦闘で勝つことを目的としてポケモンを鍛える人間のことで、言ってみればポケモンの調教師である。

ゲームシステムは、オーソドックスなRPGと同じである。マップ上を歩き、敵と遭遇すると戦闘モードに移る。戦闘は、少年が直接戦うのではなく、少年が自分の育てたポケモンに指示を出して戦わせるという形になっている。ポケモン同士の戦いは、一対一で行われる。このとき、自分のモンスターが倒されるか、コマンド入力時に交代の指示を出したときに、交代させるためのポケモンをストックの中から選ぶことができる。ストックの数は最高6匹までである。戦闘に勝つと、その戦闘で使ったモンスターに経験値が入る。経験値を積み重ねることで、モンスターはレベルアップし、強くなる。新しい特殊能力を覚えたり、進化して別モンスターに変身することもある。戦闘に使うモンスターは、野生モンスターとの戦闘で、モンスターボールというアイテムを使うことで捕獲できる。こうしてモンスターを育ててゆくのが、このゲームの遊び方の大筋である。

さらに目的がもう一つある。それは、世界に存在するすべてのモンスターの情報を集めた「モンスター図鑑」を作ることである。モンスターを手に入れると、自動的にそのモンスターの情報がモンスター図鑑へ記録される。記録される情報は、モンスターの絵や名前、体長や体重、説明文や鳴き声といったものである。

このゲームの特徴である、通信ケーブルを使ったシステムには、対戦と、モンスターの交換がある。対戦は、通常の戦闘と基本的には同じである。モンスターの交換で他のプレイヤーと交換したモンスターは、自分で捕まえたモンスターの1.5倍の早さで成長するという性質がある。

このゲームで、もう一つ特筆すべきことは、ソフトのパッケージに赤と緑という2種類のものが売られているということである。ゲーム内容は同じだが、各モンスターの出現率が違っている。例えば、赤のバージョンではよく出現するモンスターが、緑のバージョンにはなかなか出てこなかったり、その逆があったりするということである。これにより、モンスター図鑑を完成させるには赤をプレイしている人と、緑をプレイしている人が双方のモンスターを交換し合うということが重要になってくるのである。

ポケットモンスターのポケモンには、昔の怪獣消しゴムやメンコと違って実体というものがない。このような実体の無さというものは、小学生が、コレクションという行為をすることにとっては、障害となるように思われがちである。しかし、このポケットモンスターは、モンスターのビジュアル・体長・体重・説明文・鳴き声といった、実態をイメージさせる断片的な情報によってそれを補っている。そしてさらに、成長によって進化し変身もするというように、従来の「もの」にはない面白さもある。

この「ポケットモンスター」は、6年かけて作られたというだけあって、ゲームバランスはかなり練り込まれている。しかし、システム的には通常のRPGの戦闘をむしろ簡略化した感じのシンプルなものであるし、モンスターの数も150種類というふうに、コレクションとしてはやはり数が少ないようにも思える。

しかし、この種のゲームはまだまだ発展途上だ。今後、社会の情報インフラが整備されてくれば、通信ゲームというものがもっと手軽なものになるだろう。そして、スタンドアローンで遊ぶより、通信で他の人と遊んだ方がはるかに面白いのが確かなのは、近年の対戦格闘ゲーム人気を見れば明らかである。これから、ネットワークゲームというものが、大きくクローズアップされ、前面に出てくることは間違いない。このゲームは、まだまだその序章に過ぎないのである。



追記:1996年12月22日
この文を書いた時点では、「かくれた大人気ソフト」であったのだが、今ではその人気ぶりもすっかり公然のものとなり、売り上げも100万本を突破しそうな勢いである。「青」バージョンの発売や、続編の発売も予定されている。
また、NINTENDO64では、カートリッジにモデムを内蔵できるので特別な周辺機器がなくても通信を行うことが出来る。ポケモンの開発元のゲームフリークでは、これを使った実験も既に始められているというので、ポケモンの世界がさらなる発展を遂げることは確実である。
ただ、モデムと電話回線を使った通信では、ゲームボーイ同士での通信よりフットワークが悪くなるのは否めない。ホストコンピューターのシステムを工夫し、電話回線のメリットを生かして遠距離ユーザー同士でのコミュニケーションを促進させることが鍵になるであろう。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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