9の字事件

1988年2月世田谷区の中学校の校庭に生徒数人が机といす474個を並べて巨大な「9」の字を作ったという事件。動機は「宇宙人との交信」であった。
これはかなり珍しい異界との通信方法である。通常、異界との通信にはなんらかの物語を必要とし、それらは古い宗教や神話などから引用されることが多い。しかし、ここにはそれがなく、かといって宇宙意志との交信といったアメリカ的なニューエイジ思想もない。かなりオリジナリティの高い通信方法であったといえる。
考えてみるに、机といすを並べるという行為は、学園と異界を結び付けるのに必要だったのではないだろうか。学園紛争がとうの昔に終焉し、その反動の狂騒の時代も終わりを迎え、冷戦は落ち着き、偏差値競争が最盛期を迎えている中で、もっとも抑圧の強い中学校という場所での日常突破を目的とした若いエネルギーの発露の形態がこのようなものになったという事実は、かなり馬鹿馬鹿しく、切ない感じである。
このような事件がニュースで報道されたという事実自体も、見過ごせない馬鹿馬鹿しさを内包している。


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