カットアップ

前述のウイリアム・バロウズは空テープ実験こそしなかったものの、その他の異界間通信手段をさまざまに実践した人である。その中で代表的なものが、カットアップという手法である。
これは、ある文章をいったん単語や文節ごとにバラバラにし、ランダムにつなぎ合わせて再構成するという手法である。この手法の目的は、通常の人間が考えられる範囲の言葉の繋がり方を超えた、より豊穣な言語表現を獲得するためだったと考えられる(ノンリニア研究室を参照)。しかし、彼のエッセイを読むと、それだけではなく、再構成した言葉の中に予言めいた言葉があるのを発見して興味を示しているのが分かる。以下に少し引用してみる。

ある期間にわたってカットアップの実験を行っていると、切ったものや並べ直したテキストの中に、未来の出来事への言及らしきものが現れる。ジョン・ポール・ゲッティの書いた記事をカットアップすると、「自分の父親を訴えるのは悪いことだ」というのが出てきた。そして一年後、彼の息子達の一人が彼を訴えた。

     『バロウズという名の男』 W.S.バロウズ(著) 山形浩生(訳) ペヨトル工房 1992年発行 より引用

文章を切り刻んで並び替えれば、全く意味の違う新しい文章になるのは当然のことで、その中に偶然、未来のについての文章だと取れる箇所があってもおかしくはない。しかもそれが予言のようだと分かるのは、すでに事が起こってしまってからである。しかし、文章を並べ替えるだけで異界からのメッセージを受け取れるというのはお手軽で面白い方法だと言える。その文章に何らかの神秘的な権威性があれば、さらにそれらしさは大きくなる。

バロウズはこのカットアップの実験を文章に対してだけではなく、テープレコーダーを使って音に対しても行っている。これを応用して、例えば「マッドタクシー」のような音のみのホラーゲームの中にカットアップをランダムに行う箇所を入れておくと面白いのではないだろうか。カットアップによって、偶然、ほんとの心霊現象のような音が発生するかもしれないからだ。


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